放浪の途中 赤松ますみ
くるぶしに闇が静かにまといつく
アルバムの隅に残っていた車輪
真ん中へゆくほど痛くなってくる
満腹になる金色も銀色も
きさらぎの琴に銀河の音がする
みんなして黙って抱いている波紋
氷室まで水晶玉になりにゆく
縁取りをされて泣けなくなりました
白い曼珠沙華
憎しみの形に割れた瓶の口
絹の音たてて手紙を焼いている
頬擦りをせがんで困るぬいぐるみ
寂しい と言って途切れるオルゴール
野晒しにされて人形むきになる
本籍のわからぬ白い曼珠沙華
父の墓まで軽く落ち葉を踏んでゆく
恋う人に真っすぐ伸びる飛行雲
しあわせになるためにするお勉強
セレクション柳人 赤松ますみ
ひまわりをいっぱい積んで船が出る
愛されていたいと思う未刊の絵
ためいきをどんどん逃がす換気扇
偽善者のわたしに開く自動ドア
しつけ糸はずすと揺れる現在地
たわごとを吐いては太る春キャベツ
半分に切ると本音を吐くレモン
拷問のように待ち針つけられる
懺悔室の小窓に雨が降りやまぬ
てのひらの海凍らせぬようにする
私が特に好きな句は
* 憎しみの形に割れた瓶の口
ますみさんは多くの人から文学性の高い句を作る人と評価されている。
私も同感だけど同時にリアリズムも強く感じる。
上の句の 憎しみはだれに向けられたものだろう。
裏切った恋人か、幼いころに出て行ってしまった父親か、理不尽な姑か、騒音を出す隣人か
それは読み手が想像すればよい。
欠けた瓶の口を見て、憎しみの形と表現できる詩性がすごいと思う。
この17音からいくつものドラマが生まれてくる。
何百ぺージの小説に匹敵するほどの表現力だと思う。
もう一句好きな句
* しつけ糸はずすと揺れる現在地
これもますみ川柳の中では分かりやすい句だけれど
みんな無理して生きているんだな、背筋を伸ばし、周りに気を使い
反省し、お世辞を言い、愛想笑いをし、咳ばらいをし、拍手をし、
私って何がやりたいの? ってことに・・・
ますみさんに師事して2年余り、
こういう詩性というのは学べるものだろうか?
* 天性か天然かアクオスの彩 樹