戦後ほどなく刊行された雑誌「文章倶楽部」は、現代の詩誌「現代詩手帖」の前身にあたる。詩の投稿欄は詩人の谷川俊太郎と鮎川信夫が合評で選考。石原吉郎の詩「夜の招待」は1954年の10月号に、初投稿で入選を飛び越えて「特選」に選ばれた。
  (畑谷史代「シベリア抑留とは何だったのか」より)




 夜の招待 石原吉郎

窓のそとで ぴすとるが鳴って
かあてんへいっぺんに
火がつけられて
まちかまえた時間が やってくる
夜だ 連隊のように
せろふあんでふち取ってーー
ふらんすは
すぺいんと和ぼくせよ
獅子はおのおのの
尻尾(しりお)をなめよ
私は にわかに寛大になり
もはやだれでもなくなった人と
手をとりあって
おうようなおとなの時間を
その手のあいだに かこみとる
ああ 動物園には
ちゃんと象がいるだろうよ
そのそばには
また象がいるだろうよ
来るよりほかに仕方のない時間が
やってくるということの
なんというみごとさ
切られた食卓の花にも
受粉のいとなみをゆるすがいい
もはやどれだけの時が
よみがえらずに
のこっていよう
夜はまきかえされ
椅子がゆすぶられ
かあどの旗がひきおろされ
手のなかでくれよんが溶けて
朝が 約束をしにやってくる

 (初出「文章倶楽部」)