
モンシロチョウ夏型 伊藤 聚(あつむ)
風に乗っているというのでもなかった。はじめは交叉点
の上をいっきに飛び抜けるいきおいを持っていた。交叉
点では南の風が周囲のビルに乱され、瞬間毎に方向を変
えていた。直進の信号が赤に変る直前に外側の車線に移
り、西へ向う車の間にまぎれこんだ。ここからはしばら
くその姿が見えない。強い排気に煽られたかどうかして、
突然高度を取り戻した。デパートの配送のパネルトラッ
クのスチールの角に触れそうになり(実際接触したのか
も知れない)急旋回して離脱する体勢をとったが、たち
まち箱型車体の後流の渦に巻込まれてしまった。タイヤ
の高さをなんとか維持してそれでも七、八台をやり過し
たあと、アスファルトの地面に降りた。白い翅をたてて
いる。そして、助からない。グレイのトヨタが前輪で轢
いていった。翅は破れもせず、たたまれて横倒しになっ
ている。それからあとは、通過する車が乱す大気によっ
て翅は立たされ倒され、叩きつけられ、ふわっと一回転
だけ空中に舞い上らせられるようなこととなった。
(詩集「世界の終りのまえに」より)

