濁り江 室生犀星

街に支那の男跼(かが)まり
生きたる龜を手に持ち
悲しく茫々たる声を挙げて
わんぱあ、わんぱあとは叫べり。
我 この声を聞くごとに
その声に和するごとく
わんぱあ、わんぱあと心の中に叫べり。
伝家甸(ふうじやでん)の昼深く春は浅かれど
ああ わんぱあ わんぱあの声絶間(たえま)なく
わが愁(うれ)ひとはなりけり。

 (「哈爾濱詩集」より)