信夫(のぶお)日和(びより) 丸山薫
ーー津村信夫を悼(いた)むーー

君に誘はれて出ると
よく 大雨に遭(あ)つた
度々(たびたび) 電車は立往生し
訪ねる友は留守だつたり
珈琲店は閉つてゐたりした

千ヶ瀧の山毛欅林(ぶなばやし)で
ぐしよ濡れの服を絞りながら
ぼくは君をやりこめた
君は空を仰いで長大息し
悲運! 悲運! と叫んだ

碌(ろく)でもない天気の日に
ぼくは妻に言つたものだ
けふも信夫日和だね と
するとその言葉が招くかのやうに
君の靴音が近づいてくる

快活で 屈託なく
少年めく主観と振舞ひのゆくてに
失策はいつも待つてゐた

ああ 百日紅かがよふ土用真昼
すでに冷い秋風が過ぎる
遽(あわただ)しい君との別れのやうに
冷い秋の風が吹いて過ぎる

 (詩集「花の芯」より)



津村信夫=詩人。詩集に「愛する神の歌」「父のゐる庭」「或る遍歴から」などがある。
かがよう=きらきら光って揺れる、きらめく