故園の春 村野四郎

私はふかぶかと
故園の春の中に沈む
父や祖父たちが朽ちはてた
くろい土の上に
きょう うつくしく
梅の花散り
彼らのひろい胸郭(むね)の匂や
ふるい野良衣の匂が
私の肉体(からだ)のまわりにたゞよう

私は千年もまえから生きていた
そして なお
千年の後に生きるだろう

愛というにはあまりに深く
もはや痛みもなく
憂いもなく
漠々たる故園の空の中から
新しい雲雀(ひばり)のこえが
秒刻(せこんど)のように墜ちてくる

 (詩集「抒情飛行」より)