緑 左川ちか 緑 左川ちか朝のバルコンから 波のやうにおしよせそこらぢゆうあふれてしまふ私は山のみちで溺れさうになり息がつまつて いく度もまへのめりになるのを支へる視力のなかの街は夢がまはるやうに開いたり閉ぢたりするそれらをめぐつて彼らはおそろしい勢で崩れかかる私は人に捨てられた (嶋田龍編「左川ちか詩集」より1932年の詩)