数年前のことですが、まいまいず井戸を見に府中市郷土の森博物館に行くと、村野四郎記念館がありました。なぜそこに記念館があるのかわからないまま、立ち寄る時間もなく帰りました。
後日気になって調べると、村野四郎は府中の生まれでした。ご存知のように、国語の教材として取り上げられることの多い「鹿」の作者です。
四郎は酒・荒物問屋を営む商家の四男で、府立二中(現在の立川高校)に自転車で甲州街道三里を通学したそうです。五人の姉妹と六人の兄弟がいて、父は寒翠と号する俳人、兄の次郎は北原白秋門下の歌人、三郎は西条八十門下の詩人だったとか。村野と言えば、当然のように村野四郎を思い浮かべますが、村野一郎から村野七郎までいたのですね。
埋れた六月 村野四郎
野の戯れ
たがいにひきあう愛の手も
鎖のように重かった
わか葉がかくす くちづけも
どこかに
墓のにおいがした
茂みに沈む鶯(うぐいす)のうた
たまゆら 光り
薮(やぶ)にのがれる永遠の蛇
(詩集「抽象の城」より)