雷とひよつ子  伊東静雄

あけがた野に雷鳴がとどろいた
野にちらばる家々はにぶく振動し
北から南へ
かと思ふと又東から西へ
冬を追ひやる雷鳴が
繰返しあけがたの野にとどろいた
ただ童子(どうじ)だけが
その寝床に目ざめなんだ
朝それで童子が一等はやく起出した
鳥屋(とや)では丁度(ちょうど)そのとき
十三匹のひよつ子が
卵から嘴(くちばし)を突きだすところだつた
金いろのちつちやな春が
チチチチチと誕生してゐた
ただ童子のほかは
だあれもそれを見なんだ

 (詩集「反響」以後)