曠野の歌 伊東静雄

わが死せむ美しき日のために
連嶺の夢想よ!汝が白雪を
消さずあれ
息ぐるしい希薄のこれの曠野に
ひと知れぬ泉をすぎ
非時(ときじく)の木の実熟るる
隠れたる場しょを過ぎ
われの播種(ま)く花のしるし
近づく日わが屍骸(なきがら)を曳(ひ)かむ馬を
この道標(しめ)はいざなひ還(かへ)さむ
あゝかくてわが永久(とわ)の帰郷を
高貴なる汝(な)が白き光見送り
木の実照り 泉はわらひ......
わが痛き夢よこの時ぞ遂に
休らはむもの!


 (「わがひとに与ふる哀歌」より)