天の一本道 草野心平

山の麓(ふもと)の雑木林に陽はそそぎ。林のなかは斑(まだ)らに明るく。日溜(ひだま)りの。微(かす)かな微かな陽炎(かげろふ)のたつ落葉の上に寝ころびながら空の枝模様(もよう)を眺めていた。まぶたに空の青はぬれ。ひかりは絶えず降りそそぎ。自分は獨(ひと)り重たい愛のなかにいた愛の重みを支(ささ)へていた。その時カサコソ音がして一羽の鳥が飛びたつた。あかじかあをじかそんな小鳥が向うの赤松の林に向つたおなじその時。はるか向うの空の高みを渡り鳥らしい一ト群れが流れていた。聲(こえ)もたてずに或(ある)ひは鳴きあつているのかもしれない一ト群れが。愛そのもののやうにかなしくせつなく。天の白い一本道をながれていつた。
 

  (詩集「絶景」より)