
一月の歌 村野四郎
崖のある切り通しをまがると
そこから枯野が
地獄の出口のようにひらけていた
ここへ来かかる人びとは
はじめて おのれの
凍った人生に気づくのだ
霜枯れぼうぼう
すすきをかむった藪かげには
無を分泌しつくした昆虫の
くろい抜けがらが すがっていた
ああ 無思想のはての
この透明な原野には
いつか茨の実にすかしてみた
あの宝石の文明さえ
とうにすがれて亡びてしまった
遠くの方で
ムンクの太陽がパチパチして
つめたい炎をあげている
さみしい空のあたりから
やがて まもなく
機械みたいな神さまが
すみれ色のきものをきて
下りてくる
あの ふしぎな春がやってくるのだ
(詩集「亡羊記」より)
*「忘羊記」の忘羊とは、学問の道があまりに幅広いために、容易に真理をつかむことができないことのたとえ。また、あれかこれかと思案に暮れることのたとえだそうです。

