鉢  北園克衛

ぼくは
ひとつの
鉢をあいした

土あらく
それは
風のやうに軽かつた

糸尻に
すこし
瑕(きず)があつた

我居山
勿人識
白雲中
常寂寂

寒山の詩が
かすかに
青くのこつてゐた

雨の日
わづかに菓子をいれて
侗(とう)然と麁(そ)茶をのんだ

  (詩集「家」より)



    我居山
    勿人識
    白雲中       
    常寂寂
     ↑

    我は山に居るも、
    人の識る勿し。
    白雲の中、
    常に寂寂たり。

   
  *侗(とう)然=雑念がなくて心が空なさま。
  *麁(そ)茶=粗末なお茶