川 千家元麿

川、川
清い川
おまへは波立ち
楽しげに走つてゆく
笛のやうに歌ひ乍ら
曲つたり、真直ぐになつたり
少しも休まず
流れてゆく清い水よ
おお楽しげに軽らかに
みんなで跳り上つて障害物を越えたり
輪を巻いて踊つたり
急に輪をほどいて走り出したり
狂ふやうに楽しく興奮して
先きへ先きへと笛を吹いて走つてゆく
美くしい水の精よ
純潔に平静に
軽らかに屈託も無く
楽しい旅をしてゆく川よ
走れ、走れ
足並揃へて




千家元麿の詩はいかにも無造作、無技巧的でほとんど散文に近い。が、自然と人間への素朴な共感の上に立つその人生肯定態度の明るさによって、健康的な生き生きとした感銘を与える。この詩は、川に呼びかけ、流れのさまを描写しながら、川に託して生きる喜びを歌ったものである。
     (小海永二「日本の名詩」より)