椅子 石原吉郎

無人であることを絶対の
前提とすることで
部屋ははじめてひとつの意志に
めざめることができる
椅子を引き倒し
扉を押し開けたものの
最後の気配に
耳をすませたのち きみは
椅子がみずからの意志で
ゆっくりと起き直り
無人の食卓へ向うさまを
ひっそりとおもひ
えがけばいいのだ

 (詩集「北條」より)