晩き日の夕べに  立原道造

大きな大きなめぐりが用意されてゐるが
だれにもそれとは気づかれない
空にも 雲にも うつろふ花らにも
もう心はひかれ誘(さそ)はれなくなつた

夕やみの淡(あは)い色に身を沈めても
それがこころよさとはもう言はない
啼(な)いてすぎる小鳥の一日も
とほい物語と唄を教へるばかり

しるべもなくて来た道に
道のほとりに なにをならつて
私らは立ちつくすのであらう

私らの夢はどこにmrグルのであらう
ひそかに しかしいたいたしく
その日も あの日も賢(かしこ)いしづかさに?


  (詩集「萱草(わすれぐさ)に寄す」)