わかれる昼に 立原道造

ゆさぶれ 青い梢(こずえ)を
ゆさぶれ 青い木(こ)の実を
ひとよ 昼はとほく澄みわたるので
私のかへつて行く故里(ふるさと)が どこかとほくに あるやうだ

何もみな うつとりと今は親切にしてくれる
追憶よりも淡く すこしもちがはない静かさで
単調な 浮雲と風のもつれあひも
きのふの私のうたつていたままに

弱い心を 投げあげろ
噛みすてた青くさい核(たね)を放るやうに
ゆさぶれ ゆさぶれ

ひとよ 
いろいろなものがやさしく見いるので
唇を噛んで 私は憤(おこ)ることが出来ないやうだ



  (詩集「萱草(わすれぐさ)に寄す」より)