雪炎  河井酔茗

土手の片陰に雪が残つてゐる
雪の上を月が照らしてゐる
月には色がない
雪にも色がない
月の光と
雪の息とが縺(もつ)れあつて
冷たい陽炎(かげろふ)が立つ

ちらちらと眩(まぶ)しい
白いやうな
青いやうな
紅いやうな
ほそい炎が燃える

内からの熱に
白銀の炎となつて
舞ひ上る雪が
月の光に消えてしまふ

  (詩集「霧」より)