葦の地方(四) 小野十三郎

いつか
地平には
ナトリユームの光源のような
美しい真黄な太陽が照る。
草木の影は黒く
何百年か何千年かの間
絶えて来ない
小鳥の群れが
再びやつてくる
三角形状の
縁だけが顫動(せんどう)する金属板が
杳(くら)く
蒼空の中に光る。
機械はおそろしく発達して
地中にくぐり
見えない。
太古の羊歯のしづかさに
たちかへる。
やがて いつか
そんな日が
或(あるい)はやつて来ないとはかぎらない。
ここにいささか余裕を生じ
心の平衡と
希望があつて
それらを緻密に計量出来るならば
この国の鉄には
この国の石炭や石油には
この国の酸素や水素
塩酸や硝酸や二酸化炭素にはそれだけの用意もあるだらう。
羊歯の葉つぱや
鳥たちの純粋な飛翔のような
何か おそろしくしづかな
杳い夢のようなものも
或は。

 (「風景詩抄」より)