葦の地方(二) (小野十三郎)

電気溶接の
あの遮光面(ヘルメット)をかぶると
みんな揃(そろ)つて化物(ばけもの)みたいだ。
どこにお父さんがゐるのかわからない。
菫(すみれ)色の跳ねつかへる火花を浴びて
お父さんによく似た人が
あつちを向いて仕事をしてゐる
お父さんと呼んでみたが
その人にはきこえない。
こんなに杳(とほ)い杳いところまで
僕が蹤(つ)いてきてゐる なんて
その人思へないんだ。

 (「風景詩抄」より)