今日の羊歯(しだ) 小野十三郎

海近く
地は劃(わ)られている。
冬陽が射してしづかだ。
大気はかすかに硫酸銅を含み
そこには鉄と電気とカーバイトがいる。
いつからかそこにいる。
見よ、赤錆びた葦(あし)を。
炭化する羊歯のやうに
この索漠とした原へ
徐々に精神の同化を完了してゆく禾(か)本科植物。
それからすでに透きとほつた或種の小鳥、蜻蛉、蜆蝶。
そいつらの小さな魂たち。
人間はずうつとまだおくれてゆく。

   (「風景詩抄」より)



 *禾本科植物=イネ、コムギ、トウモロコシ、タケ、ササ
       などが含まれる。