壽(ひさし)に 伊藤 整
        ー大正十五年の五月ー

燒き場からの歸り路には
雨降り花が數知れず咲いてゐる。
雨降り花は どこか
病んでゐた間のおまへの顔のやうだ。
弟よ
いまお前の骨を箱に拾つて
みんなは白い着物で
五月の野道を並んで歸るのだ。
兄さんはもう二十二
博つちゃんだつてはたちになり。
おまへと仲よかつた八重子は十六のおとな、
それなのにお前だけが
たつた十二で鐡板の上の白い骨になり
箸をもつた私たちを燒場で泣かせた。
この野道には
死ぬ前のおまへの顔のやうな
雨降り花がずつと咲き續いてゐて、
お前が十二年育つた風景のなかを
雲雀(ひばり)らが
いくすぢもいくすぢもないて空に昇る。

 (詩集「雪明りの路」より)


伊藤整の四弟(伊藤家の五男)・壽(ひさし)が亡くなった時の詩です。