目覚め (シュペルヴィエル) 目覚め シュペルヴィエル世界が僕から去って行く この絨毯(じゅうたん) この本おまえたちはみんな行ってしまう。バルコニーは 二つの鎧戸(よろいど)の間にあって自由な雲に身を変える。ああ! 四方の壁がめいめい勝手に背を向けて立ち去って行くちょうど 遠くから一隻の船が 見えない波で命令を下しているように。天井は 自分の心臓が鷗(かもめ)のように羽ばたいてしめつけるのをこぼしている。ひそかな恐怖を映し出す鏡の底板が悲鳴をあげた。まるで ひとりの男が海へと真逆様に空の冠を戴(いただ)いた 目には見えないマストの上から落ちたかのように。 (安藤元雄訳 詩集「万有引力」より)