忘れた秋 岸田衿子

待つことを秋の道でおぼえたとき
風は一つ一つの草の実に吹き
野は一日一日の夕焼けを蔵った
私はそうして秋を数えていた

昔は何を語り何を聞いたのか
昔は何を待ち何を望んだのか
川は知っているらしかった
そうして昔の川は私の傍を流れた

昔いくつかの物語は木の下で眠り
昔いくつかの恋は木の下で別れたと
嘘をつかない楡の木は云つた

けれども忘れっぽい蝶は
木の向うに足音がすることや
木の中にかくれているひとを教えてくれた

 (詩集「忘れた秋」より)