草の上  三好達治

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野原に出て坐つてゐると、
私はあなたを待つてゐる。
それはさうではないのだが、

たしかな約束でもしたやうに、
私はあなたを待つてゐる。
それはさうではないのだが。

野原に出て坐つてゐると、
私はあなたを待つてゐる。
さうして日影は移るのだがーー

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かなかなはどこで啼いてゐる?
林の中で、霧の中で

ダリアは私の腰に
向日葵は肩の上に

お寺で鐘が鳴る。
乞食が通る。

かなかなはどこで啼いてゐる?
あちらの方で、こちらの方で。

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池のほとりの黄昏は
手ぶくろ白きひと時なり

草を藉(し)き
静かにまた坐るべし

古き言葉をさぐれども
遠き心は知りがたし

我が身を惜しと思ふべく
人をかなしと言ふ勿れ

   ★

鵞鳥は小径を走る。
彼女の影も小径を走る。

鵞鳥は芝生を走る。
彼女の影も芝生を走る。

白い鵞鳥と彼女の影と
走る走るーー走る

ああ、鵞鳥は水に身を投げる!

  (詩集「測量船」より)