白い自由画 丸山 薫
「春」という題で
私は子供達に自由画を描かせる
子供達はてんでに絵具を溶くが
塗る色がなくて 途方に暮れる
ただ まっ白い山の幾(いく)重りと
ただ まっ白い野の起伏と
うっすらした墨色の陰翳の所々に
突刺したような疎林の枝先だけだ
私はその一枚の空を
淡いコバルト色に彩ってやる
そして 誤って まだ濡れている枝間に
ぽとり! と黄色の一と雫(ひとしずく)を滲ませる
私はすぐに後悔するが
子供達は却(かえ)ってよろこぶのだ
「ああ まんさくの花が咲いた」と
子供達はよろこぶのだ
まんさくの花 丸山 薫
まんさくの花が咲いた、と
子供達が手折(たお)つて 持つてくる
まんさくの花は淡黄色の 粒々した
眼にも見分けがたい花だけれど
まんさくの花が咲いた、と
子供達が手折つて 持つてくる
まんさくの花は点々と滴りに似た
花としもない花だけれども
山の風が鳴る疎林の奥から
寒々とした日暮の雪をふんで
まんさくの花が咲いた、と
子供達が手折つて持つてくる
(ともに詩集「北国」から)