ココアのひと匙 石川啄木 ココアのひと匙 石川啄木われは知る、テロリストのかなしき心をーー言葉とおこなひを分かちがたきただひとつの心を、奪はれたる言葉のかはりにおこなひをもて語らんとする心を、われとわがからだを敵に擲(な)げつくる心をーーしかして、そは眞面目にして熱心なる人の常に有つかなしみ なり。はてしなき議論の後の冷めたるココアのひと匙を啜(すす)りて、そのうすにがき舌触りに、われは知る、テロリストのかなしき、かなしき心を。 (詩集「呼子と口笛」より)