太陽のようなヴィヴァルディ | かたばみ日記

かたばみ日記

 好きなものは野辺の草花、古い音楽、二匹の老猫、温かい紅茶と読書の時間。息子は大学生、娘は小学生です。




仕事の日。









新年度に向けて、新たに始まること
新しい出会い
勇気を持って踏み出すこと




そういう、早春の空気の中で
仄かにきらめいているような予感の影に




この季節には
どうにもならない小さな悲しみがある。




年度末に
転勤に伴うお引越しで
退会する子が三人。
受験に専念するために休会する子が二人。





それから、やるせない理由で
さよならする人がいる。






何年か前、八十台半ばで腰を痛め
歩いてくるのがしんどくなって
私が毎回、車で送迎していた最高齢の生徒。
この冬、体調を崩したのをきっかけに
とうとう遠くの施設に入居することが決まった。





「自然の中のとってもいい施設なの。」と、
明るい声で報告する彼女。

「今のサ高住と違ってね、最後までみてくれるの。
息子夫婦が探してくれたのよ。」





新幹線で行くような遠い町です。
彼女は来年、卒寿を迎える。
もしかしたら、もう
本当にさよならかもしれない。





「センセ、最後にビバルディをやりたいわ。
これからはもう、ビバルディなんて
できなくなると思うから。」







それで、来月ひと月かけて
彼女が大好きなヴィヴァルディを
仕上げよう、と約束しました。




イタリアの太陽のように
底抜けに明るいヴィヴァルディ。





彼女が泣き言ひとつ言わず
受け入れたんだもの。





私も、笑顔でさよならしよう。