手のひらを眼の前に持ってきて
まるで鏡を見るような動作をした。
死ぬ間際に人は手鏡をかざすと聞いていた。
まさにその謂れのような現実を目の前にして
祖母の死が迫っていることを悟った。
仕事が終わり駅に向かって歩いていると
車が近づいてきて窓が開いた。
「おばあさんが急変したからすぐ車に乗って!」
父の慌てた様子に胸が締め付けられた。
初孫のジュンヌを溺愛してくれた祖母だったが、
ジュンヌは大きくなるに連れ
年寄りの雑なやり方や母とのいざこざ
気の強い祖母に対して
「汚い!」「ほっといて!」と
事あるごとに反発し、
反抗期のジュンヌは祖母を悲しませた。
時と共にそんな反抗期も過ぎ、
祖母との関係性も良くなってきていた
祖母79歳、ジュンヌ19歳の
師走の29日の夕方だった。
慌てて家につくと
祖母の顔は、土気色になり生気がなくなっていた。
風邪で寝ていた祖母は、数時間前に腸捻転を起こし
狂ったように苦しんだと言う。
「さっきは大変だったんだよ」
「やっと楽になったところでね」
祖母は穏やかな表情をしていたが、
死期が近いことは子供のジュンヌにもわかった。
家族全員が枕元で見守っていると
祖母が手のひらを眼の前に持ってきて
手鏡を見るような動作をした。
なんでも死ぬ間際になると
目が見えなくなり、
自分の手を見ようとするらしい。
そして、静かに息を引き取った。
悲しいのかどうかも、まだ実感がなかった。
ジュンヌは、祖母のチョッキを編みかけていることを思い出した。
「せめてこれを祖母の棺に一緒に入れてあげたい」
祖母との思い出を振り返りながら徹夜で編み、
「おばあさん、ありがとう!」と
感謝の気持ちを編み込んだチョッキを棺に収め
別れを告げた。
我に返った時、
携帯もないあの時代に
帰り道で父と出会えなくて、
いつものように帰っていたなら、
祖母と言葉をかわすことできなかっただろうと思った。
そして妹や弟も家族全員が揃うのを
待っていたかのように旅立った祖母の思いに
不思議なものを感じ
「待っててくれてありがとう!」と言って別れを告げた。

