商品は注文が殺到し、生産が追いつかないという現象を生み出していた。
嬉しいはずなのにいつも自信がなく、
何年も「ファッションデザイナーです」と言えなかった。
入社してすぐに先輩が辞めてしまい、
デザインに関しては、特に問題はなかったが、
パターン(型紙)技術に関しては
練習しかしたことのない俳優が
いきなり大舞台に立たされて
主役を演じなくてはならないような状況だった。
創っているものもワンピースでも5万円前後のため、
客層的にミセスも多く、
体型もミスサイズとは異なっていた。
学校で習ったのはミスサイズだけだったので、
ミセスの体型がわからなかった。
バイヤーさんから
「肩周りがきつい」
「ウエストのサイズに多様性を持たせてほしい」
「もう少し〇〇にして」
営業マンを通してパターン修正の注文が次々と入った。
先輩は辞めてしまったため
誰に聞くこともできず、
試行錯誤でパターンを直すしかなかった。
ジュンヌにとっては、
常にお客様が先生であり、
お客様に育てられてきたと思っている。
もうちょっとここを直したほうが着やすくなるのではないか、
研究し続ける毎日だったため
どこまでやったら完成品なのかもわからず、
いつも不安がつきまとった。
そんな毎日を送っていたある日、
あるショップのオーナーさんが
「あなたのパターンは完璧だよ」と言ってくれ、
思ってもいなかった言葉に涙がでるほど嬉しかった。
いつもより良いものを提供したいという気持ちは常にあり、
素材に関しても、
プリーツ加工をするためによりシルクに近い合繊を作って欲しいと
生地メーカーに注文を出したり、
オリジナルのプリントを創るために
イタリアのコモ湖のアトリエまで図案の買い付けに行ったりもした。
新しいことに挑戦しようとすると
すべてのことが試行錯誤の毎日だった。
年5~6回展示会が行われていたため、
展示会の前になると徹夜が続き、
後輩のデザイナーと
「2時間仮眠するので、時間になったら起こして」と言って、
お互いに会社で仮眠を取りながら展示会に間に合わせた。
眠気で、仕様書の文字がミミズのようになっていたり、
よだれのあとがあったり(笑
人には見せられない姿で、
ひたすら籠もって昼夜仕事に没頭し、
3日連続半轍状態なんてこともあった。
人から
「趣味は何?」と聞かれると
「仕事」と答えていたくらい
仕事以外のことは生活の中になかった。
今だったら完全にブラック企業と言えるかもしれないが、
そんな経験の一つ一つがジュンヌの宝物になっている。
