テレビではお笑い番組が映し出され、
みんな楽しそうに笑っていた。
夕食も済み、家族団らんの楽しい時間帯であった。
そんな空気をやぶるかのように
一人泣き続ける中学2年のジュンヌがいた。
何故泣いているのかわからず、家族は困り果てていた。
昼間も畑仕事をする母を追いながら泣いていた。
「何がそんなに悲しいのか言わなきゃわかんないだろう!」
「わかんない・・・!だけど悲しいんだもん!」
母はどうすることもできず、
高校の先生をしている姪に相談した。
家に来てくれ、いろいろと話を聞いてくれたが、
自分でも何が原因かわからないため
解決策は見つからなかった。
心の中にぽっかり穴が空いたような
捉えどころのない不安感をどうして良いのかわからず、
夏休み中泣いて過ごした。
周りに誰もいない灰色の洞窟の中をさまよっている感覚だった。
家族も心配してくれていたのだろうが、
何も思い出せないほど孤独感に苛まれていた。
そんな夏休みも終わり、新学期が始まった。
不安を抱えながらも学校へと向かったジュンヌ
不思議なことに今まで泣いて過ごした夏休みは何だったのだろうと思うほど、
不安感が消えていた。
孤独な夏休み中、相談する友達もいなかったジュンヌにとって
高校受験に対する未知への不安や
思春期独特の不安定な心の状態が重なって
わけも分からない重圧感に押しつぶされそうになっていた。
ただ、なんとなく感じていたことがあった。
塩谷家の屋敷内に祖母の弟家族が住んでいて、
そこにジュンヌより2つ年上の男の子がいた。
「あんちゃん」と慕っていた。
友達はいないが、あんちゃんはジュンヌをかわいがってくれ、
一緒に遊んだり、いろいろ話しを聞いてくれた。
そのあんちゃんが中学3年生の時
俳優のオーディションに受かり
東京に行ってしまった。
友達のいないジュンヌにとっては
話し相手がいなくなってしまった寂しさ、
やり場のない思いで、
いっぱいいっぱいになっていたのかもしれない。
後にも先にもこんな悲しい体験は初めてだった。
自分の知らない自分に出会ったような不思議な出来事だった。
