前回の『サド侯爵夫人』の夜、劇場の裏方が日時(設定)を間違えて、第2幕の稽古場(プロット)の風景が一瞬だけ劇場の暗闇に紛れ込んでしまいました。その短い時間に見つけて、ご覧くださった皆様、ありがとうございます。
今夜、正式公開として、修正版ナチスの残影渦巻く密室の幕を上げたいと思います。
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【修正版】『愛の嵐』
暗闇の密室に生息する亡霊――
あるいは歪んだ愛の檻について
サスペンダーが食い込み、私の肌に薔薇色の熱がこもる……
それは拘束の跡のように、痛みは甘美な記憶となって私をあの灰色の季節へと引き戻す。
ウィーンの夜風はあんなに冷たいのに、私の身体だけが、男の視線の先で焼けただれている。
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リリアーナ・カヴァーニが『愛の嵐』で描き出した、共依存と退廃の成れの果て。ヒロイン・ルチアの肌に残る残酷な記憶は、かつて、元ナチス親衛隊のマックスが彼女に刻み込んだ、決して消えない刻印だった。目を閉じれば、今もあの冬の凍てつくような強制収容所の景色が、鮮明な悪夢となって蘇る。
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【ルチアの独白|幻影】
あの日、私ルチアの無垢な世界は終わりを告げ、歪んだ愛の檻が完成した。
マックスが私を地獄のような場所で見出し、特別な「獲物」として扱ったその時から、私の魂は、深い闇に飲み込まれてしまった。
無垢な少女としての私は死に、男の視線ひとつに翻弄される抜け殻――あの暗闇の舞台でしか息のできない、倒錯したお人形になってしまった。
そうして私は、心と身体が引き裂かれるままに、ナチスの制帽をかぶり、トップレスで踊った。男たちの好奇な視線の中で、私はマックスだけを見つめていた。
そんな余興のあと、オスカー・ワイルドの戯曲『サロメ』のパロディのように、そのダンスの報酬としてマックスが私にくれたもの。それはサロメに登場するヨカナーンの生首のような、私が嫌っていた男の首だった。
極限の日常のなかで、崩壊した精神の、加害と被害の境界が溶け出した退廃的で美しい、あの儀式。
そんな倒錯した男を、私は激しく拒絶し、同時に心から慕った。
だから戦争が終ってからの、夫との平穏な暮らしや光に満ちた日常は、あまりにも空虚で退屈なものでしかなかった。
あの恐怖と裏表の甘美な陶酔が身に沁みて忘れられない。私にとって、もはや「普通」の幸せなどどこにも存在しない。
ウィーンのホテルで再会した私たちは、閉ざされた部屋で滅びゆく道を選んだ。
割れたビンのガラスの破片で、互いの肌を傷つけ合い、けたたましく笑って遊んだ。血の滲む痛みを共有することだけが、この暗闇の檻に閉じ込められた私たちの唯一の術だった。私たちが互いの存在を確かめ合うために……。
私がナチの残党に命を狙われていても、マックスは私を離さなかった。私たちは共に口封じの処刑対象になり、外に出られなくなった。
精神が摩耗し、空腹で意識が遠のくたび、私たち二人はあの冬の収容所へと還っていく。そして命の灯火が消える前に、私たちは最後の「儀式」を始めたのだ。
マックスは再び親衛隊の制服に身を包み、私は少女の頃の洋服を着せられた。
でも私が憶い出していたのは、あのサスペンダーが食い込む肩の感触。腐った血のような熱の跡。
そうして、私たちは扉を開けて、夜明けのウィーンの街へと歩み出した。
過去を再現する亡霊のように……これが二人の、たった一度きりの、永遠の婚礼。
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夜明けの銃弾に撃ち抜かれるその瞬間まで、彼女は男の「ルチア」であり続け、男は彼女の「支配者」かつ「ルチアという女王の奴隷」であり続ける。それは、暗闇の中ですら生息することを許されない、哀しい亡霊たちの最期であった。
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(次回:異端の鳥|J.コシンスキ)
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