彼女が家についたころにはもう夕日が綺麗な時刻になっていた。


部屋のドアを開けようと手を伸ばした瞬間


どこからともなく綺麗なギターの音色が聞こえてきた。


そしてその綺麗なメロディはとても切ない歌声と重なり


しばしその場で足を止めた。


どこから聞こえてくるんだろう・・・





耳を澄ますと、その音は部屋の中からだった。


ギターを弾き口ずさんでいる彼の姿が会った。


彼は彼女に気づく様子もなくひたすら歌い続けた。



綺麗な声・・・



その甘く切ないメロディは彼女の胸に響き渡り 


体中に浸透していくようだった。


曲が終わり顔をあげた彼は彼女に気付いた。


そして不意に彼女を見つめた。


「あ、お帰り・・・」


その当たり前のような何気ない一言が妙に嬉しかった。



「ギター、直してくれたのね?全然使ってないから・・・」



「あ、ごめん、勝手に」



「ううん。それよりその曲素敵ね。誰の曲?」



彼は少し目を伏せて、そのまま黙ってしまった。


暫くの沈黙が続いた。



「僕、わからないんだ。」


「え?」


「自分の事、その、色々・・・」


「!?」


「あの・・・あなたと、僕って・・・?」


「・・・・・」



記憶喪失だったの?この子。


どうすればいい?


何て答えれば?


・・・・・・



暫く考え込んでいたが、咄嗟に彼女は口を開いた。



「あ、あの、恋人・・・私達。忘れちゃった?」



「・・・・・」



あぁなんて事言ってるんだろう。


どう見たって私は年のかなり上だし・・・


バレるに違いない・・・!!


あまりの恥ずかしさで「ジョーダンだよ!」の言葉が


なかなか出てこなかったが、彼は優しい目で彼女を見て言った。





「そうか・・・。ごめん。思い出せなくて」




「・・・・・」



彼女は胸の奥がチクっとした。


少しの罪悪感と、少しの安堵と、彼の優しい顔。


複雑な気持ちのまま彼女は口を閉ざしていた。



「あ、これは何となくわかるんだ。」


「何故か唄える。」


「それと多分、皆から・・・あなたからtakaって呼ばれてた。」



そう言った彼はにっこりと初めての笑顔を見せた。