バイトからの帰り道
白とも灰色とも言えない薄暗い空だった。
私は車を走らせていた。
家の近くのちょっとした上り坂に
よたよたと自転車を押す老婆の姿があった。
(…大丈夫かな?)
道の傍に車を停めて駆け寄った。
「何か手助けしましょうか?」
老婆は顔を上げた。
私の声が聞き取れないのか
「は?」何度か聞き返してくる。
その顔を見た瞬間、背筋が冷たくなった。
―とてもよく似ている。。。
3歳の私を捨てた母親。
私が高校生になる辺りから
何年かに一度、
連絡が来るのは決まって
お金が足りなくなったときだった。
老婆の顔が、母と重なった。
いや、顔だけじゃない。
泣きそうな声ですがるような目。
あの、芝居がかった話し方までも、、、
「姉ちゃん、300円、貸してくれんか?
猫の餌が買えへんのや…
たくさん飼ってた猫が、留守の間に捨てられて
一匹だけしか残らんかったんやけど、
その猫に食べさせる餌がないんや。
猫は待ったなしやろ?」
云々。。。
なんか色々話しているが、
私はとっくに車に戻って財布を開けた。
老婆の声が、耳の奥で響く。
猫の餌。。。300円。。。
――妙に生々しい。
でも、途中からは
(お財布持たずに買い物??)
(こんな時間に自転車で?)
(私に会わなきゃどうするつもりだった??)
ああ、絶対嘘や、、
なんで嘘つくの???
ちょっと腹立たしくもある。
財布の中には500円玉がひとつ。
「……これでいいですか?」
手渡すと、
老婆は受け取ってから泣きまねのような声で
「ありがとうございます」
「ほんまにほんまになんてお礼を言えばいいか」
と、声を震わせている。
「家はどの辺?
またここで姉ちゃんに会えたら返すわなぁ」
終始泣くようなこえを震わせた。
名前も聞かれない。電話番号も。
返す気なんて絶対にない。
そんなことは直感的にわかっていた。
老婆はふらふらと、
自転車を押して坂を上っていく。
………… 何だったんだろう。
「あの時、私は断れたのか?」
「『お金はない』と、嘘をつけたのか?」
胸の奥に、酷く重たいものが沈んでいく。
母親への感情も、きっと同じだった。
もうとっくに
許したつもりだった。
でも、
本当に?
まだなの?まだ許せてないの?!!?
まだやるの??
ー手を合わせる老婆。
人から奪っても、
明日をどうにかするための何かに
変えるだけだろう。
贅沢するわけでもない。
そう思うと、哀れでどこか寂しい。
そして、自分のパラレルに
あの姿があるようで
とても怖かった。
なぜ働かない??
本当に、老婆は居たんだろうか。
忘れたはずの過去や、
片付いたはずの感情が
ふとした瞬間に顔を出すことがある。
偶然か。必然か。
何を信じて
何を感じたらよかったんだろう。。。