パラレル -17ページ目

パラレル

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泉屋博古館東京で開催中の「鹿子木孟朗 不倒の油画道」展でこれは、と思う作品、鹿子木孟朗(1905)《黄昏》個人蔵 の主観レビューをお届けします。

本作は、夕暮れ時の情景を題材にした作品で、日没前後の柔らかな光の中で農作業を終えた農家の親子が佇む姿が描かれています。

 

この3人の直立する身体の垂直線、背景の塀や屋根の水平線が画面の骨格を形成しています。

これは、画面に静かさ、重厚さ、堅牢さを与えます。

 

一方で、手前の屋根の角度、人物が持つ農具などが斜線を形成しており、安定構図に対する動的要素になります。

この対比があることで、単なる静止像ではなく、一日の労働を終えた後の余韻や時間の流れが画面に緊張感として生まれています。

 

子供の赤い服は全体を引き締め、さらに、頭上には光が見えます。

ここから、日常の中にある神聖さ、労働と家族愛の尊厳を象徴的に読み取ることができます。

 

泉屋博古館東京で開催中の「特別展 生誕151年からの鹿子木孟郎ー不倒の油画道」へ行って来ました。

現在の岡山市に生まれた鹿子木は、14歳で洋画家・松原三五郎の天彩学舎に入学、18歳で上京し、小山正太郎の画塾・不同舎に学びました。

都合3度パリへと留学し、19世紀フランス・アカデミスム「最後の歴史画家」と称されたジャン=ポール・ローランスに師事。

また、象徴主義の画家ルネ・メナールに接するなど、多くの学びと新しい刺激を受けました。

帰国後は、文部省美術展覧会の審査委員を務めるなど、関西洋画壇の中心的な作家として活躍する一方で、自身の画塾を主宰し、京都高等工芸学校講師や関西美術院の第3代院長を務めるなど、多くの後進を育てています。

 

本展は、生誕150年を記念して、広く知られた画家の代表作から、新たに発見された作品まで、鹿子木の画業をたどることができる作品を紹介するものです。

 

展覧会の構成は以下の通りです。

 

第1章 「不倒」の油画道への旅が始まった。

第2章 タケシロウ、太平洋を渡ってパリまで行く。

第3章 再び三たびのヨーロッパ。写実のその先へ

第4章 象徴主義の光を受けてー不倒の画家、構想の成熟。

 

第1章では、14歳の鹿子木が手がけた精緻な描写の水彩画にみる写実表現の目覚めから、不同舎時代の鉛筆の線と濃淡だけで遠近感や空気感、光の移ろいまでも繊細に表現した風景描写の数々、そして観察力と描写力の高さを如実に示す油彩肖像画などに至る鹿子木初期の絵画修行を紹介しています。

明治期の東京の空気を克明に写し取った素描群からは、後年の大作を支える「一本の線」への執念が伝わります。

水彩画《野菜図》などの初期作品に見られる繊細な観察眼は、彼が単なる技術屋ではなく、対象の真実を見極めようとする「不倒」の探求者であったことを物語っています。

 

鹿子木の画業を決定づけたのが、1900年以降のパリ留学です。

彼はアカデミー・ジュリアンで学び、歴史画家ローランスに師事しました。

第2章では、この時期の作品が並びます。

アングルの模写や裸体習作からは、西洋の伝統的なアカデミズムを吸収しようとする凄まじい熱量が感じられ、油彩特有の重厚なマティエールが確立されていく様子が見て取れます。

 

第3章では、住友家の後援を得て実現した二度目、三度目の渡欧期から、帰国後の円熟期に焦点を当てています。

本展では、《ノルマンディーの浜》のために描かれた膨大なスケッチやデッサンが併せて展示されており、一つの構図を完成させるために彼がどれほどの執念を注いだかが可視化されています。

この章では、人物画・風景画・歴史画が幅広く並び、鹿子木が日本の題材をどのように描いたかが見えてきます。

鹿子木孟郎(1907)《ノルマンディーの浜》泉屋博古館東京

 

晩年に近づくと、鹿子木の作品には静かな内面性が現れます。

パリでルネ・メナールと接し、象徴主義の影響も受けており、この時期の作品には、象徴主義的な感覚も漂います。

彼のリアリズムは、単なる視覚的再現ではなく、精神の気配を描くリアリズムへと深化していったのです。

関東大震災の惨状を描いた《大正12年9月1日》は、歴史の記録者としての使命感と、人間の根源的な苦悩が重厚な色彩で表現されています。

 

流行に流されず、師の教えと自らの観察を信じ抜いた鹿子木孟郎。

その作品群には、現代の私たちが忘れかけている「実直にものを見る」ことの豊かさと、強靭な精神が宿っています。

 

 

 

 

会期:2026年1月17日(土) 〜4月5日(日)

   前期:1月17日(土)〜2月23日(月・祝)

   後期:2月25日(水)〜4月5日(日)

会場:泉屋博古館東京

   〒106-0032 東京都港区六本木1-5-1

休館日:月曜日(2/23は開館)、2月24日(火)

開館時間:午前11時〜午後6時

   ※金曜日は午後7時まで開館

   ※最終入館は閉館30分前まで

お問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)

 

 

 

麻布台ギャラリーで開催中の「劇場アニメ ルックバック展ー押山清高 線の感情」展でこれは、と思う作品、《ルックバック展キービジュアル背景原画》《ルックバック展キービジュアル原画》の主観レビューをお届けします。

背景原画は、夕暮れ時の空を大きく取った構図。

草原と一本の木が印象的な、静謐で詩的な風景が描かれています。

道が画面中央へと導くことで、「過去と未来」「別れと再生」といったテーマ性を暗示する構図になっています。

 

原画は、二人が後ろ姿で並んで歩く構図で、余白を活かしたシンプルな表現となっています。

線の強弱やかすれが、人物の繊細さや物語の余韻を感じさせます。

 

背景の穏やかな天気、淡い色彩、広く取られた水平線は、心理的に「安定」「静けさ」「永遠性」を感じさせる要素です。

そのため、「二人の時間が貴重で大切」と感じられます。

特に夕方の光は”限りある時間”の象徴にもなりやすいので、「今この時間」の尊さを強調しているとも考えられます。

 

人物描写では、右の人物は前を向き、歩幅も安定しています。

一方でもう一人は、やや視線や身体の向きが相手に寄っています。

この差は、進む存在と、その存在を見つめる存在、という構図として読むことができます。

肩の力が抜けた姿勢や、自然な歩き方は、緊張や距離感のある関係では出にくいため、「気を使わず、安心しきっている」とも解釈できます。

 

つまり、背景で時間の尊さ、構図で関係性のバランス、姿勢で心理状態を表していると考えられます。

劉 雨軒(でほぎゃらりー)《ルックバック展キービジュアル背景原画》、押山清高《ルックバック展キービジュアル原画》