アーツ前橋で開催中の「向井山朋子 Act of Fire」展へ行って来ました。
タイトルの“ Act of Fire“は、向井山の身体と記憶に深く根ざす喪失・抵抗・怒りを燃焼させる儀礼的な空間であると同時に、ジェンダー不平等、激甚化する自然災害、終わりなき侵略といった現実世界の問題を、〈火〉という根源的なメディアによって照らし出していく行為を示唆しています。
本展は、従来の展示形式とは異なる、“参加者の心を燃やし、問い直させる儀礼的空間“として立ち上がっています。
展示空間に足を踏み入れると、その薄暗さに戸惑います。
音は最小限、光も抑制され、作品というより「場」に身を置く感覚が前面に出てきます。
ここで向井山が提示するのは、「火=破壊」ではなく、火=内側に宿る衝動・感情・記憶の芽という捉え方です。
その先は、向井山の代表作のひとつ《wasted》(2009)を中心としたインスタレーションです。
女性の身体、経血、セクシュアリティといった、社会が「秘め事」としてきたテーマを目の前に引きずり出しています。
展示風景より
最も胸を打たれるのは、2011年の東日本大震災で破壊されたグランドピアノを用いた作品、《nocturne》(2011)です。
その筐体は、沈黙してもなお雄弁な音を奏でているように感じられます。
沈黙こそが最大の音響である、という逆説が体感できます。
展示風景より
最新の映像作品、《ここから》(2025)では、現実世界の不平等や自然災害、侵略といったテーマが「火」というメディアを通して照らし出されます。
ここで重要なのは、火は破壊の象徴であると同時に、浄化と再生の象徴でもある、という二重性です。
本作を通過すると、私たちはもはや「観客」ではなく、ひとつの儀式をくぐり抜けた当事者に近い感覚を覚えるはずです。
展示風景より
本展では、進むにつれ、「作品を理解しようとする立場」から「自分自身を見つめ直す立場」へと自然に移行していきます。
そんな稀有な展覧会へ行ってみませんか。
会期:2026年1月24日(土)〜3月22日(日)
会場:アーツ前橋 ギャラリー
〒371-0022 群馬県前橋市千代田町5-1-16
休館日:水曜日(2月11日[水・祝]開館、翌12日[木]閉館)
開館時間:午前10時〜午後6時(入場は午後5時30分まで)
主催:アーツ前橋
特別協力:向井山朋子ファンデーション、一般社団法人マルタス
制作協力:LUFTZUG/遠藤豊、レニエ・ファン・ブルムレン
担当学芸:宮本武典、東美沙季
後援:上毛新聞社、群馬テレビ、FM GUNMA、まえばしCITYエフエム、前橋商工会議所
協力:ピアノプラザ前橋、まえばしガレリア、桐生市有鄰館



