浄瑠璃寺九体阿弥陀修理完成記念 特別展 京都・南山城の仏像 | パラレル

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東京国立博物館で開催中の「浄瑠璃寺九体阿弥陀修理完成記念 特別展 京都・南山城の仏像」へ行って来ました。


京都府の最南部、木津川に育まれた風光明媚な一帯は南山城と呼ばれます。

京都と奈良の間に位置し、二つの古都の影響を受けた独自の仏教文化が花開いたこの地には、奈良時代や平安時代に創建された古刹が点在し、優れた仏像が数多く伝わります。

 

平安時代には貴族たちが極楽往生を願い、九体阿弥陀(九体の阿弥陀如来像)を阿弥陀堂に安置することが流行しましたが、九体寺とも呼ばれる浄瑠璃寺には当時の彫刻・堂宇が唯一現存します。

九体の阿弥陀如来像が並ぶ様子はまさに極楽浄土の世界を表しています。

 

本展は、九体阿弥陀の修理完成を記念して開催するもので、南山城に伝わる国宝、重要文化財をはじめとする数々の貴重な仏像を通じて、その歴史や文化の奥深さを辿ります。

 

会場入ってすぐ、目を引くのが《十一面観音菩薩立像》(平安時代・9世紀 京都・海住山寺)です。

目が細く、やや厳しい表情をしていますが、衣は変化に富んだ美しい表現です。

頂上の面から台座の足元部分、右手は指先、左腕は半ばまで、天衣などを同じ木から掘り出す精緻な技巧が見られます。

頭上面の一つが作り替えられますが、全体に保存状態が良好です。

 

近くには《薬師如来坐像》(平安時代・9世紀 京都・薬師寺)が紹介されています。

張りと弾力のある肉体や流麗な衣文は乾漆像に見えますが、本像は針葉樹の一材を彫り出した木彫像です。

彫刻刀でこれほどの柔らかな質感を表すことのできる仏師の力量は並大抵ではありません。

平安時代初期の彫刻に特徴的な量感表現にも注目したいところです。

 

また、《普賢菩薩騎象像》(平安時代・11世紀 京都・岩船寺)も展示されています。

普賢菩薩は『法華経』を護持する者を守る仏として、平安時代には宮中の女性から厚く信仰されました。

面長な顔立ちに細身の体つき、背筋を伸ばしてわずかに下を向く姿は神聖な雰囲気を醸し出しています。

現在、法華経曼荼羅が描かれた南北朝時代の厨子(本展では未出品)に納められています。

 

私たちがよく知る仏像として、お地蔵様と呼ばれる地蔵菩薩があります。

本展では《地蔵菩薩立像》(平安時代・12世紀 京都・浄瑠璃寺)が紹介されています。

丸い顔立ちや薄い体つき、浅く緩やかな衣の襞など総じて平安時代中期から後期に流行した穏やかな作風を基調としています。

着衣には鮮やかな彩色の上に多種多様な截金の文様が丁寧に施され、洗練された装飾性には当時の貴族の好みが反映されています。

 

そして、本展のメイン、《阿弥陀如来坐像(九体阿弥陀のうち)》(平安時代・12世紀 京都・浄瑠璃寺)です。

浄瑠璃寺本堂に安置される九体阿弥陀のうちの一体です。

平安時代中期以降に流行した穏やかな表現を基調としています。

九体阿弥陀とは9段階の極楽往生になぞらえて作られた9体の阿弥陀如来像のことで、平安時代に主に貴族の間で流行しましたが、現存するのは浄瑠璃寺だけです。

 

この九体阿弥陀如来像の西方を守っているのが、《広目天立像(四天王のうち)》(平安時代・11〜12世紀 京都・浄瑠璃寺)です。

誇張を抑えた穏和な表現に加え、全身に残る華麗な彩色や、金箔を細く切って貼付した截金から、平安時代後期を代表する遺品といえます。

制作当時の光背や邪鬼にも注目してみましょう。

 

立った姿の十一面観音菩薩が多い中で、珍しく坐った姿をしているが、《十一面観音坐像》(鎌倉時代・13世紀 京都・現光寺)です。

これは、観音菩薩の浄土である補陀落山に居るためと考えられています。

腰を強く絞った天平彫刻のような肉体表現は、鎌倉時代に奈良の地で活躍した慶派仏師たちによる古典彫刻の研究成果に通じます。

 

最後は、極楽浄土から往生する者を迎えに来る姿の《阿弥陀如来立像》(鎌倉時代・1227年 京都・極楽寺)です。

作者は鎌倉時代の著名な仏師・快慶の弟子、行快です。

整った作風を受け継ぎながらも、鋭い眼差しや松葉状に分かれる衣文を多様する点に行快独自の作風が認められます。

 

このように、本展は南山城の各地に点在する寺院に伝わる優れた仏像を観ることのできるまたとない機会です。

穏やかな地域である南山城になぜこれほどまでの優れた仏像が伝わるのか、思いを巡らしてみてはいかがですか。

 

 

 

 

 

 

会期:2023年9月16日(土)〜11月12日(日)

会場:東京国立博物館 本館特別5室

主催:東京国立博物館、日本経済新聞社、テレビ東京、BSテレビ東京

協賛:JR東海、竹中工務店、NISSHA

特別協力:京都南山城古寺の会