古伊万里の「あを」ー染付・瑠璃・青磁ー | パラレル

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戸栗美術館で開催中の「古伊万里の「あを」ー染付・瑠璃・青磁ー」展へ行って来ました。


「あを」とは主に青、緑、藍など広い範囲の色を指す古語です。

江戸時代に作られた伊万里焼の「あを」の装飾には、青緑色の青磁釉、藍色の瑠璃釉などの色釉、青や緑の上絵具、白い素地に青色の文様を施す染付の呉須絵具などが挙げられます。

特に、染付の青色の技法は、草創期にあたる17世紀前期から技術を研鑽し続け、江戸時代が終わるまでの約250年を通じて、豊かな表現がみられます。

 

本展では染付の青色を中心に瑠璃釉の藍や青磁釉の青緑、上絵具の青や緑といった「あを」の変遷を紹介しています。

 

では、染付とは何でしょうか。

染付とは、酸化コバルトを発色の主成分とする呉須絵具で素地に絵付けをしたのち、釉薬を掛けて還元炎焼成することで青色を得る下絵付けの技法です。

天然の呉須絵具は酸化コバルトの他、酸化マンガン、酸化第二鉄、酸化銅、酸化ニッケルなどの金属化合物を含み、成分の微妙な違いが発色に影響します。

 

会場では、《青磁染付 波文 舟形皿》(伊万里 江戸時代 17世紀後半)が展示されています。

舟の形にかたどり、見込半分に染付で波文を描いた変形皿です。

伊万里焼の舟形皿にはボート状の作例が多いのですが、本作は端を尖らせたシャープな器形です。

染付の部分のみに透明釉を掛け、その他は全体に青磁釉を掛けています。

 

青磁釉とは、透明釉に1〜2%の酸化第二鉄を混ぜ込んだ釉薬です。

釉薬に含まれる酸化第二鉄が還元炎焼成によって酸化第一鉄に変化することで青緑色を呈します。

 

そして、上絵具の「あを」が広まります。

本焼き焼成した釉面に上に絵付けを施し、低温焼成する色絵に使用する上絵具。

有田では17世紀中期頃に中国からの技術の流入によって色絵の技法が成立したと考えられています。

初期の伊万里焼は釉薬の下に絵付けを施す技法のみで、安定した発色を得られる染付の青が主流でした。

しかし、絵付の登場によって、赤・青・緑・黄・紫・金銀などカラフルな装飾を施すことができるようになりました。

 

《色絵 鷲文 皿》(伊万里(古九谷様式) 江戸時代 17世紀中期)に目がとまります。

一羽の鷲を描いた中皿です。

色絵の剥落が多いため周囲の文様な判然としません。

全体に歪みが見られ、口縁を折り返して鐔縁とした器形、小さめの高台、裏面に残る指跡などは17世紀前期の初期伊万里の特徴を呈しています。

しかし、本作にみられる青・緑・紫・黒といった色絵は1640年代以降に始まる技法であることから17世紀中期の作と推定されます。

 

《染付 芋葉形皿》(伊万里 江戸時代 17世紀後半)は優品です。

本作は里芋の葉をかたどった変形皿です。

染付による青の発色は鮮やかで、揺らぐような濃淡の変化が美しい。

葉脈の白線は墨弾きの技法が使われています。

里芋は親芋の周りに子芋がたくさんできることから子孫繁栄をあらわし、また七夕に芋の葉に溜まった露で墨を磨り、文字を書くと上達するといわれる縁起物でもあります。

 

墨弾きとは、墨と濃を用いて白抜きを表現する技法です。

白くあらわしたい部分をあらかじめ墨で描いた後に濃を施して焼成すると、墨が焼き飛んだ部分が白く残ります。

 

また、染付と青磁釉を併用した「青磁染付」が登場します。

下絵付けの技法である染付と青磁釉を使用するため、本焼き焼成までの工程で完成します。

 

《青磁染付 樹鳥文 葉形三足皿》(伊万里 江戸時代 17世紀後半)は、ろくろで成形後、口縁に細工を加えて葉形とした皿です。

染付で描いた尾長鳥と松葉に透明釉を施すほかは、全面に厚く青磁釉を掛けています。

底面は蛇の目状に釉剥ぎし、鉄泥を塗った高台に、チャツと呼ばれる窯道具の跡が一重めぐり、高台内には目跡が1つ残ります。

 

このように、本展では染付の青色を中心に瑠璃釉の藍や青磁釉の青緑、上絵具の青や緑といった「あを」の変遷を紹介しています。

「焼き物はちょっと・・・」という方にこそおすすめしたい展覧会です。

渋谷によった際に行ってみてはいかがですか。

 

 

 

 

 

 

会期:2023年7月7日(金)〜9月24日(日)

会場:戸栗美術館

   〒150-0046 東京都渋谷区松濤1-11-3

開館時間:10:00〜17:00(入館受付は16:30まで)

   ※金曜・土曜は10:00〜20:00(入館受付は19:30まで)

休館日:月曜日・火曜日

   ※7月17日(月・祝)、9月18日(月・祝)は開館