パラレル

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美術鑑賞はパラレルワールドを覗くことです。未知の世界への旅はいかがですか?

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国立西洋美術館で開催中の「チュルリョーニス展 内なる星図」でこれは、と思う作品、《森》の主観レビューをお届けします。

本作の最大の特徴は、山の形がはっきり固定されていないことです。

巨大な山塊が描かれているように見える一方、波や雲、あるいは「横顔のような形」にも見えます。

つまり、単なる風景ではなく、多義的で変化するイメージとして描かれています。

 

森は水平線が目立ち、静かな印象を受けますが、山は曲線が多く、まるで動いているかのようです。

これは、風景の違いではなく、「静的な世界」と「動的な世界」の対比として読めます。

また、山の輪郭が揺らぐように描かれているため、「固体」ではなく、変化し続ける存在として感じられます。

 

色彩も暖色と寒色で対立し、性質の違いが際立ちます。

色彩の対立は、異なる次元・異なる性質の世界の衝突として読めます。

 

今いる世界とは異なる、未知の領域を表しているように感じられ、自然に対する畏怖があるように思われます。

本作には人物がおらず、スケールが圧倒的であり、形が不安定です。

「美しい」だけでなく、理解できないものへの恐れや畏敬が含まれています。

 

また、森から山へ視線が導かれる構造であるとも言えます。

つまり、人間の世界から超越的な世界への移行を描いているとも考えられます。

チュルリョーニス(1906)《山》国立M.K.チュルリョーニス美術館

 

国立西洋美術館で開催中の「チュルリョーニス展 内なる星図」へ行って来ました。

リトアニアの地方の慎ましい家庭に生まれたチュルリョーニスは、幼少の頃から音楽の才能を示し、初め作曲を学びますが、しだいに絵画への道へと強く惹かれていきます。

ところが、画家としての成熟を迎えた矢先、過労と精神的負担により健康を損ね、わずか35歳の若さで生涯を閉じることとなります。

6年という短い画業のなかで、300点以上もの作品が手掛けられました。

 

日本で34年ぶりの大回顧展となる本展では、国立M.K.チュルリョーニス美術館が所蔵する代表的な絵画や版画、素描など、約80点を紹介しています。

 

展覧会の構成は以下の通りです。

 

プロローグ

第1章 自然のリズム

第2章 交響する絵画

第3章 リトアニアに捧げるファンタジー

エピローグ

 

チュルリョーニスにとって、祖国の豊かな自然は常に創造の源であり続けました。

しかし、チュルリョーニスの作品においては、写実的ないし地誌的な風景描写はごくわずかな例外を除き存在しません。

そこではむしろ、自然の生命感が抽象的に捉えられ、抒情的な気分や象徴的な意味を吹き込まれています。

第1章は、チュルリョーニスの初期から中期の、自然への深い洞察が見られる章です。

チュルリョーニス(1906)《山》国立M.K.チュルリョーニス美術館

 

19世紀末から20世紀初頭のヨーロッパでは、ボードレール、ワーグナー、ニーチェらの思想から影響を受け、少なからぬ画家が絵画と音楽の統合を目指しました。

しかし、自身が職業的な作曲家でもあったチュルリョーニスは、色彩による共感的表現にはほとんど関心を払わず、音楽の構造を絵画の構造に応用しようとしました。

第2章では、チュルリョーニスの真骨頂である、それらの作品群を紹介しています。

チュルリョーニス(1908)《フーガ[二連画「プレリュード、フーガ」より]》国立M.K.チュルリョーニス美術館

 

18世紀末以来、リトアニアは長きにわたりロシア帝国の支配下にありましたが、1904年から1905年の日露戦争でのロシアの敗戦とロシア第一革命を受け、リトアニアにおいて民族解放の機運が急速に高まりました。

 

チュルリョーニスもまた、この運動に積極的に身を投じ、同国の芸術界を牽引する実質的な指導者のひとりとして、リトアニア芸術協会の創設メンバーに加わり、リトアニア美術展の実現に尽力しました。

失われた国家のアイデンティティを取り戻すために人々の拠り所となりえたのが、芸術にほからななかったのです。

第3章は、リトアニアの民族、神話、そして宇宙的なスケールへと想像力が飛躍する章です。

チュルリョーニス(1909)《リトアニアの墓地》国立M.K.チュルリョーニス美術館

 

エピローグでは、チュルリョーニス最大の作品である《レックス(王)》が紹介されています。

そこでは、王ーすなわち宇宙の支配者にして世界の普遍的精神という主題が、壮大な交響詩を思わせる多元的構成のもと可視化されています。

モノクロームの明暗の繊細なバランスと、木々や彗星、天使といったモティーフの反復はリズムを生み、画面の多層的構造はポリフォニーの響きを奏でます。

チュルリョーニス(1909)《レックス(王)》国立M.K.チュルリョーニス美術館

 

チュルリョーニスが混迷する時代の中で見つけ出したのは、「内なる星図(心の地図)」です。

情報が溢れ、外の世界が騒がしい現代だからこそ、チュルリョーニスの静謐で孤独な、しかし壮大な「内なる宇宙」は、私たちの心に深く響きます。

単なる美術展を超えた、「魂の浄化」に近い体験ができるはずです。

 

 

 

 

会期:2026年3月28日(土)〜6月14日(日)

会場:国立西洋美術館 企画展示室B2F

   〒110-0007 東京都台東区上野公園7-7

休館日:月曜日、5月7日[木](ただし、3月30日[月]、5月4日[月・祝]は開館)

主催:国立西洋美術館、読売新聞社、国立M.K.チュルリョーニス美術館

特別助成:リトアニア共和国文化省

助成:国立西洋美術館柴原慶一基金

後援:J-WAVE

協力:駐日リトアニア共和国大使館、西洋美術振興財団

お問合せ:050-5541-8600(ハローダイヤル)

 

 

 

東京藝術大学大学美術館で開催中の「日曜美術館50年展」でこれは、と思う作品、熊谷守一(1956)《ヤキバノカエリ》岐阜県美術館蔵 の主観レビューをお届けします。

本作は、亡くなった長女の火葬後、家族が帰る場面を描いています。

つまりこれは、家族の死という個人的な悲劇を描いた私的な絵です。

 

中央の男性の持つ骨壺は白であり、服の黒に映え、まず先に目が行きます。

その男性の足取りは頼りなく、精神的に参っているようです。

それは、右上の木々のようなものが斜めに描かれていることからも想起されます。

 

顔は敢えて描かれておらず、観る者の想像に任せています。

そのことで、様々な想像が広がる。

隣の女性は、視線や身体の向きから、男性を心配しているように思えます。