16

    

   アーレントは女友達への手紙で書いている、

   オーデンが求婚に来た夜のことを。

   「オーデンが来ました。あんまり浮浪者然としているので

   ドアマンが心配して一緒についてきました。その晩はどう

   見ても変でした。」

    重なる生のリアリティー。

 

   追悼式。

彼女は式次第の紙に、 彼の詩からとった二行連句を書き記した。

   「人の失敗を言祝げ

    失意の歓喜のうちに。」

    オーデンの死後アーレントの見せた動揺に

彼女の学生たちは強い印象を受けた。

   「私はまだ彼のことを、彼が避難所を求めてやって来た時

   受け入れてやらなかったことを考えています。(略)そうです。

   彼は歌い手でもあれば物語そのものでもあったのです。」

   (引用は全て「アーレント~マッカーシー往復書簡」)

 

   数年ののち、

   アーレントの死。

   タイプライターには 扉として使う予定の

   ルカヌスの詩行が 印字されていた。

   「勝利の大義は神々を喜ばせ、

    敗北のそれはカトーを喜ばせる。」