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アーレントは女友達への手紙で書いている、
オーデンが求婚に来た夜のことを。
「オーデンが来ました。あんまり浮浪者然としているので
ドアマンが心配して一緒についてきました。その晩はどう
見ても変でした。」
重なる生のリアリティー。
追悼式。
彼女は式次第の紙に、 彼の詩からとった二行連句を書き記した。
「人の失敗を言祝げ
失意の歓喜のうちに。」
オーデンの死後アーレントの見せた動揺に
彼女の学生たちは強い印象を受けた。
「私はまだ彼のことを、彼が避難所を求めてやって来た時
受け入れてやらなかったことを考えています。(略)そうです。
彼は歌い手でもあれば物語そのものでもあったのです。」
(引用は全て「アーレント~マッカーシー往復書簡」)
数年ののち、
アーレントの死。
タイプライターには 扉として使う予定の
ルカヌスの詩行が 印字されていた。
「勝利の大義は神々を喜ばせ、
敗北のそれはカトーを喜ばせる。」