迎    春

 

 〈「絶望の唄を歌うのはまだ早い、と人は言うかも知

れない。しかし、私はもう三年も五年も前から何の明

るい前途の曙光さえ認めることができないでいる。・・〉

 〈私はこの頃自分の書くものに急に「私」的な調子

の出て来たことに気がついている。…何故だろう。

社会関係を見失ってしまったからだ。私の所属してい

ると思ってあてにしていた集団がなくなってしまっ

たからだ。本当はなくなったのではなくて、変わ

ったのであろう。だが、私にとっては、どっちみち同じ

ことだ。。…〉

 〈人なかにいると、私はふと自分が間諜のような気

がしてきて,居たたまれなくなって、席を立ちたくなる

ことがある。・・・〉

 〈私は欺かれたくない。また欺きたくもない。・・・

選良も信じなければ、多数者も信じない。みんなどう

かしているのだ。(あるいはこちらがどうかしている

のかもしれない。)・・・〉

       [「歴史の暮方」、林達夫著作集5〕)

 引用は、1940年(昭和15年)6月3日に公表された林

達夫の文章より。昨年の公教育を取りまく状況によく

似ているな、と思います。実際の職場では「いい人ば

かり」で自分を〈間諜〉のように感じるのはいつも帰

り道。他の職場や大学ではどうでしょうか?

 

 本年も宜しくお願い致します。

                2003年  新 春