コウタくん、カラオケ楽しんでくれましたかねー?
今日は一瞬で成功者になる方法です。
どうぞ。
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ガチャ…
「ただいま…」
明らかに元気のない声で僕は帰ってきたことをミントに知らせた。
「あれ?わりと早かったね?」
ミントが驚いた顔で僕にそういった。
そう。
いつもフリータイムで入店して、夜まで歌って帰るのが日課の僕だけど、今日は2時間もしないうちにカラオケルームを後にした。
「実はさ…」
「うん。」
僕は神妙な面持ちで口を開き、ミントはそれに答えるようにゆっくりと頷いた。
「全然上手くなって無かったんだ…。」
「うん。それで?」
「それで、落ち込んで帰ってきたんだ。」
「へっ?」
「えっ?」
「えっ?なんで上手くなってないからって落ち込んじゃったの?」
「えっ?そりゃそうでしょ。二週間も練習して上手くなって無かったんだ。落ち込むよ。」
「はぁ…。」
ミントは大きなため息をついてから僕を見た。
「あのね、コウタくん。そもそもカラオケに行った目的はなんだったっけ?」
「えーっと。あ、『今まで歌えて無かった高い声の歌が歌えるようになってるかどうかのチェックのため』ですね。」
「だよね。で、目的は達成された?」
「そう言われると…『高い声は出なかった』ってチェック出来たので、目的は達成されましたね。」
「だよね。じゃあなんで落ち込んでるの?」
「心のどこかで、上手くなってないかなぁって、上手くなってればいいなって期待してたからですね。」
「そうだね。目的と違うことを考えてたんだね。」
「はい。」
そっか…。僕は当初の目的を達成してたにも関わらず、勝手に高望みして、更にはそれが出来てないからって当初の目的まで忘れて落ち込んでたのか…。
「コウタくん、上手く行かない時こそ成長のチャンスなんだ。上手くいかなったということはこの二週間のやり方では何か違うか、二週間ではまだまだ足りないかのどちらかだということだね。」
「あっ、はい。確かにそうですね。」
「じゃあ、早速スモールステップの見直しが必要だよね!」
「あっ、あの…言ってることは分かりますけど、ちょっと今はテンションが上がらないというか、落ち込んでいたいというか…」
「えっ?」
ミントが不思議そうな顔でこちらを見る。
ミントの言ってることが正しいのはわかってる。だけど、だからと言って気持ちを急に切り替えれるほど僕はメンタルが強いわけじゃない。
「それじゃあ、コウタくん。」
ミントが何かを察したように僕に話しかける。
「モデリングしてみようか!」
「モデリングですか?」
「そうそう。モノマネごっこのことなんだけど。」
「はぁ…。」
「モデルを決めてマネしてみてることをモデリングっていうんだけど。」
モノマネか…。
あんまりやったことないな。小さい時にドラえもんとかならやってたけど。
「例えば、モノマネ歌手ってほとんどの人が歌が上手だよね?」
「あっ、確かにそうですね。」
「あれは、モノマネ(モデリング)してるうちに歌い方のコツを掴めるからなんだ。」
「へー。モデリングか…。」
「で、モノマネって深刻にならずに楽しんで出来るよね?だから余計に身につきやすいんだ!」
「へー。そんなもんなんですね。」
「そうそう。で、コウタくんは今落ち込んでるみたいだから、そんな時は成功者のモデリングをするといいんだけど、コウタくんは誰か好きな成功者とかいる?」
「えっ?僕が好きな成功者ですか?うーん。やっぱりウサインボルトとかですかね?めちゃ走るの早いし、ずっと1位だし!」
「100m、200m走の世界記録保持者ボルト選手だね。」
「はい。やっぱり無敗ってところが最高ですね。」
「無敗?そっか、コウタくんにはそう見えるんだね。」
「えっ?違うんですか?」
「もともとボルト選手は脊椎側彎症って病気を持ってて、上手くバランスをとって走ることが出来ずケガに悩まされてたんだ。」
「えっ?そうなんですか?」
「そう。まだ金メダルを取る前、引退まで囁かれたほどだよ。」
「え…本当ですか?今となっては世界記録保持者なのに、引退してたら世界記録はどうなってたんだろう…。」
「本当にそうだね。でも彼は諦めなかった。そして今は立派な伝説をつくった。伝説が出来たのはすでに有名になったボルトが諦めなかったのではなく、無名の選手だった時のボルトだよ。」
「う…、なんか今の僕と全然違いますね。僕はたった二週間で諦めそうになってた…。」
「もしコウタくんの頭にボルトがいたら、ボルトは君になんて言うと思う?」
「えーっと、『大丈夫!お前は伝説を作れる男だぜ。そんなことくらいで諦めるな!進もう!』ですね。クゥー!なんか元気になってきました!」
そして僕はボルトのお馴染みのポーズをとった。
ミントは呆れてそれを見ていた。
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ということで、モデリングの話でしたー。
皆さんの頭の中にも偉人を済ませましょう。