「――お疲れ様でしたぁ!」
熱気で満ちた体育館にバレー部員達の声が響く。
九月の末、夏の盛りは過ぎたと言えども、まだ日によっては夏日を記録し、特にこの部活動を終えた体育館などは蒸し風呂のような暑さだ。遥か上方でやたら緩やかな速度で回転し続ける大きな扇風機も、開け放したままになっている窓からの風も、運動を終えた俺達に心地よい風を送ってくれるわけではなかった。私達は我先にと体育館の出口へと向かう。
半年前はこうはいかず、活動が終わると先輩達が体育館を出て行くの見送りながら後片付けや床のモップ掛けに再び労を費やしていたが、中学二年に上がり新入部員を迎えてからは、その苦痛を強いられることなく体育館を後にすることができるようになった。三年の先輩達は半数が夏の大会の地区予選で敗退すると同時に引退したが、あとの半数は十二月の大会が終わるまで残るらしい。部長やキャプテン等の世代交代もそのときまでは行われないので、それまで俺達は中間管理職的な微妙な立場だが、それでも先輩の数が減ったというだけで少しは気を楽にして部活動に臨むことができるようになっていた。
私は同じ二年生部員の篠山と一緒に手を団扇代わりにして風を送りながら、体育館から更衣室へと繋がる渡り廊下を歩いた。しかしながらこの団扇は一向に生暖かい風しか送ってこない。私は、流れる汗をTシャツの袖の部分で拭い上げながらはぁっと息をついた。溜め息からも湯気が出そうなくらいに体中が熱い。一時的に屋外に出る渡り廊下から空を見上げると、徐々に日が短くなっているためか、午後五時を回った今の時間も少しずつ夕焼けに近付いていた。
「――美波!」
すると、廊下を渡り終えようというところで私の名を呼ぶ声がした。私と篠山はほとんど同時に足を止め、声がした方向を振り返る。
見ると、ここより少し高い位置にある校庭へと繋がる階段から、一人の男子生徒が手を振りながら駆け下りてくる姿があった。
「龍耶さん?」
隣の篠山が言う。だがそう言われるよりも先に声の主がわかった私の心臓は、ドクンと大きく跳ね上がっていた。
「……あぁ」
私はそれを篠山に感じ取られないように、なるべく平静に篠山を先に帰らせた・・・
「美波、俺お前のことが好きだ! 付き合ってくれないか?」
いきなりの事に戸惑いもしたが、冷静に龍耶に言った。
「ごめん! 龍耶の事好きだけど、今は付き合えない!」
私は好きな気持ちを殺して、その場を去った・・・