山田太一さんがなくなられました。

 

 

 

 山田太一さんの作品はどれも有名ですが、その中の一つ「丘の上の向日葵」も大好なドラマでした。

 

 主題歌も挿入歌も山田さんが選ぶと聞いたことがあります。

 できたらこの音楽を聴きながら読んでいただけると嬉しいです。

 

 

 私が35歳の頃、仕事と小説家の道に行き詰まっていて、ずっと尊敬していた山田太一さんに、意を決してお手紙を差し上げた事がありました。

 

 有名作家でいらしたのに、私が同封した私の文章まですべて目を通してくださって、お返事を下さいました。

 

 まさか、お返事を頂けるとは思っていませんでした。

 

 内容は、本当にお優しくて、人に恥をかかせない気配りと、山田さんが作品の中で大切にされている通り、欠点だらけの弱い人間を大事に扱ってくださいました。

 少しの奢りもなく、こんな小さな私のそばまで降りてきてくださる。

 だから、あんな作品が書けるんだなぁとつくづく納得しました。

 

 表現者はやっぱり自身を表現してるんだなぁと思いました。

 

 深い作品を書きたいのなら、表現者自身が艱難辛苦を経験して、そこでしかつかめない砂金を握りしめて立ち上がらなければ書けないものなのだと思いました。

 山田太一さんがつかんだ砂金には弱い人間への優しさにあふれていました。そして社会悪には毅然と立ち向かう強さもありました。

 竹のようにしなやかで、決して折れない強さがありました。

 

 山田太一先生がその時私に書いてくださいました。

 

「仕事だけと割り切って諦めて毎日送るよりは、一週間に5枚くらいでいいので、少しづつ丁寧に小説を書き続けていく人生の方が私にはいいように思います。

 せっかくこうやって文章を書いておられるのですから、できたら楽しみながら自分が一番読みたい小説を書いて行かれたらどうでしょうか。こうなったらいいなぁと思うことを、読者をどうやったら引っ張り込めるか、あの手この手を使って書くのです。きっと読む人も楽しむと思います。」

 

 

 

 

 

 

結局、私は仕事に追われて書くことができずに今に至ります。

 死ぬときは後悔するんだろうなぁとも思っています。

 

 仕方のない事ですが、尊敬する方々はみんな年をとり、一つ一つ蠟燭の灯が消えるように旅立たれていきます。

 一つの時代が終わってしまったような淋しさを覚えます。