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 一つ、うれしい事がありました。

先日、寛之さんのお父さん宛にお手紙を差し上げました。4月に受洗した時の私の「信仰告白」も同封しました。

―その日は私にとって寛之さんとの結婚式でした。私は今、寛之さんと共に生きて    います―

と、書きました。

この手紙を差し上げる事にどれだけの勇気を要したかをお察し下さい。

赤いポストの前にたたずんだ私は、その口元に白い封筒を差し入れては引出し、引き出しては差し入れました。それから勇気を振り絞って封筒を掴んだ指先の力を緩めると、ポストのお腹の中でコトリと音がしました。その音は、巨石が落ちたような音になって私のお腹の中にこだましたのでした。

大げさすぎると苦笑されていますね。でも私にとっては恐ろしい程の賭けだったのです。丁か半かでその後の私の人生が代わると思っていたからです。

もし何のお返事も頂けなければ、私はこれまで、一人で悲しんで、一人で結婚して、一人で喜んでいることになります。これほど滑稽で恥ずかしい無様なお話がこの世に存在するでしょうか。少なくとも私には耐えられなかった。どうしても寛之さんのお父様にだけはわかって頂きたかったのです。認めてほしかったのです。

私はおじ様の手に必ず直にこのお手紙をお渡しするために、周到に計画を練りました。おば様の目に触れてはいけない。

その頃、おじ様は小学校の校長先生をされていました。私は失礼を承知で、その小学校宛にお手紙をお出しすることにしました。

すると、直ぐその翌日にお勤め先の学校から母の元に電話を下さったのです。

「今、お手紙をもらって読みました。持って帰って寛之に見せます。こんなよいお友達をあの子は持っていたのに…、残念です。」と涙声で言って下さったそうです。

今の私にとって、これ以上の慰めはありません。

おじさまは私と彼との結婚を許して下さいました。あの結婚式はやはり私だけの一人芝居ではなかった。花婿は存在していたのです。

寛之さん。今あなたが直ぐに帰って来る気がします。あの手紙をおじさまがお家に持って帰ってあなたに見せれば、少しだけ遠くに行っていたあなたが、今すぐに戻って来てくれそうな…。それがごく当然のような…そんな気がするのです。

今、会社に新婚さんがいて、毎日華やかなお弁当を持ってきては、職場の仲間に冷やかされています。それはごく自然な日常でしょう。でも、私の生活はどこか不自然です。

 

-信仰とはまだ見ぬことを信じて確信する事-

 

天は遠く、この世は近すぎます。あなたの愛が確かにここにあって、それなのに、ここにあなたがいない事が…とても不自然で、信じられません。