家と家との結婚は、やはり「私立探偵」に内情を調べてもらうべきだったのでしょうか。

披露宴の案内状まで出している今となっては、別れさせる事は考えられませんでした。また幾晩も皆で話し合い姉を慰めました。

「優ちゃん。もうすぐこの家を離れるから気持ちが高ぶってるんよ。」

「でもね。自分の親には何にも言えなくて、全部こっちに持ってくるのがたまらない。せっかくお父さん達が爪に火を点すようにして溜めたお金なのに…。」

「いいんよ。その為に溜めてきたんだから。」

「でも向こうは、それを当てにしてる。私の事を思ってくれるんなら、ちゃんと一言くらいは親に言えるはずよ。自分の親にはいい顔して全部言いなり。」

「そこは、本当によくわからないけど、厳しく育てたのかも知れないよ。」

「違う 。そんなんじゃない。あの人、虐待されて育ったのかも知れない。あの人にとって父親は絶対君主なの。怖がってる。一言も歯向かえない。逆に私に怒ってくるもん。この分じゃ結婚しても、全部給料吸い上げられるかも知れない。会社が倒産しそうになったら、きっとこの家のお金まで吸い上げるわ!」

「そこまではないよ。考えすぎよ。」

私達も姉の話を聞いて驚かされるばかりでした。温和そうに見えていた父親でした。でも、みんな一皮向けば、どんな家庭なのかわからないのだと思いました。

自分の物差しで人を裁くなといいますが、その物差しの長さの違いにたじろぎました。しかも姉はその父親と弟と同居しなければなりません。

「私、道を間違っていたかも知れない。結婚ってこんなもんかな?こんなに嫌なのに、皆、がまんして行くのかな?」

「おねえちゃん。もうあの人のこと好きじゃないの?」

「もう、ずうっと前から大嫌い!そう言ってるでしょう。あの人、私をかばってくれないもん。私、ここにいたい。この家にいたい。だめかな。皆と離れてあんな所に行きたくない。結婚取り辞めたら、お父さん達の恥になるかな?」

姉は哀願するように言いました。私はどう答えればいいのか分かりませんでした。

姉には今、夢も希望もないのです。まるで人身御供(ひとみごくう)にでも行かされるような悽愴感が漂っています。そう言えば、白無垢は死出の衣装だと言います。結婚は女にとって人生の終り、「死」なのでしょうか。新婚さんが楽しそう見えるのは、こちらの偏見だったのでしょうか。

「私、あんな冷たい親に仕えるくらいなら、もっとお父さんとお母さんのそばで孝行したい。私のわがままかな。」

 泣いて訴える姉に、父母もどう答えてよいのかわかりません。そうでなくても日めくりの暦の薄さを恨めしく思っていた時です。抱き締めたい思いをぐっと押さえていた時です。娘の幸せを信じて、じっと耐えていた時です。

「みんな、人生初めての事だから不安になってそう思うだろうけど、一緒にいればだんだん情もわくから…。」

「そうよ。今は辛くても、きっと 『よかった』って思う日が来るから。二人で愛情を育てて、赤ちゃんが生まれて新しい家族ができれば…。私達もそうだったのよ。」

 まるで自分達に言い聞かせるようにして姉を慰めています。

「おねえちゃん、時代は回るから。きっといい時も巡ってくるよ。」

私は、どこかで聞いた歌の歌詞を取ってつけたように言いました。