「本当に申し訳ありませんでした。僕のだらしなさが、優ちゃんや皆さんを苦しめてしまいました。こんな馬鹿な僕は、もうどうしようもありません。どうか婚約はなかった事にしてください。」
「まあ、とにかく椅子に座りなさい。」
と父が促すと、首の骨が折れたのではないかと思うほどうなだれています。握り締めた拳の上に涙がポタポタと落ちるのが見えました。
目の前で土下座をされたのは初めてです。私は一言くらい、物申すつもりで座っていたのですが、こんな場所に立ち会ってもよかったのだろうかと戸惑いました。
自らの恥を目前で糾弾されたこの人は、どんな思いだろう。二度と立ち上がれないのではないかと思う程打ちひしがれています。見ている方が哀れになり、つい「そんなに思い悩むことないよ。」などと励ましそうになります。
「とにかく、分かってくれさえすればいい。人間には『けじめ』と言うものが一番大切です。ずるずるとだらしないのはいけない。自分の言葉にもっと責任をもって欲しい。これからは努力して下さい。」
と言う父の言葉を目を真っ赤にして、一心に耳を傾けています。
その姿をみて(案外、素直な人なのかも知れない。)と思いました。本当にこれを機会に改めてくれたらと、皆が期待しました。
父も他人にこんな苦い事をいうのは気持ちがよくないと、その後は一切その話はしませんでした。
数か月後、結婚式の日が近付くにつれ、姉はよく義兄と電話で喧嘩をして泣いていました。
「私やっぱり結婚したくない。」と言います。
「あの人、ひどすぎる。自分の事ばっかり。親には一言も言えないんだから。自分の新婚旅行の費用もまだ入金してないのよ。結婚式の招待の人だって、向こうの親の商売関係ばっかり、どうでもいい人を片っ端からよんで、お金は誰が払うの ?孝さんにはお金がないんだから。あの人が借金して結婚すれば、結局こっちが払うんじゃないの!」
披露宴には百人もの人を招待しています。こちらは十五人程度です。その派手さには驚かされました。向こうの親は一切お金は出しません。「ここまで育てたんだから、結婚式は子が親を感謝の意味で招待するものだ」と言う主義だそうです。
でも、本当のところはお金がないのだとしか思えません。商売は自転車操業なのかも知れません。