とにかく義兄さえ心を入れ替えて誠実な人間に生まれ変わってくれれば、全てが旨くいくはずなのです。
「最初から完璧な人間なんていない。こっちが誠意をつくせばきっと分かって貰える。私が言って聞かせる。だからもう一度彼にチャンスを与えよう。優子とならきっと立ち直ってくれる。優ちゃんも頑張りなさい。」
父はきっと、祈るような気持で彼に賭けたのです。
姉は、うつむいたまま頷きました。
姉の心は揺れに揺れていました。二年もの交際の中で少しずつ変わっていく男の肖像をもう描き切れなくなっていたのです。
目の前に別れている二つの道は、どちらも霧深く、いくら目を凝らして見ても先が見えません。右か左か自分で選択しなければなりません。やり直しがきかないのが人生です。
母が溜め息をついて言いました。
「それにしても、二人とも素直ないい子に育ってくれて、今まで自分の子供の事でこんなに悩んだ事は一度もないのに 、人のこの子とでこれほど心配しないといけないなんて…。向こうのお父さんは知らないんでしょう。」
その時、私達は本当は心の底で(別れた方がいい。私達が一番大切にしてきたものをその人は持っていない。)と直感していたのです。でも誰もそれを口には出しませんでした。
行き先が破滅かも知れないと予感した列車から、今、飛び下りる勇気がなかったのです。
私達は義兄を呼んで深夜まで話しをしました。
彼は、まさかそんな事を言われるとは思ってもいなかっのたでしよう。見る見る顔色が変わり、今にも泣き出しそうになりました。
そして突然、突っ伏すように土下座をしました。