人間がコミュニケーションするのは一つの言語だけです。普通は母語を使います。母語で話している分には脳はほとんど疲労しません。
しかし、慣れない第二言語となると話は違ってきます。どれだけ習得しているかにもよりますが、かなり使い込んでいないと脳の疲労はひどくなるでしょう。日本人であっても、米国で暮らして、常時英語を使っているという場合には、脳への負担はそれほどではありません。
通訳の場合にはまったく事情が違ってきます。二つの言語を脳で理解しなければならないため、脳の疲労がすごくひどくなります。手話通訳においても同じことがおこりますが、英語などの言語通訳者もそうです。普通の会話の2倍以上頭を使っていると思ってください。
手話通訳者に頸肩腕障害というのがかなりでてきて大問題になりました。もともとピアニストなどに多い障害なので、手話通訳者も腕などの使い過ぎによるものだろうと考えられてきました。しかし、その後の分析により、主因は脳の疲労による症状であると、少なくとも自分は思っています。
手話通訳者の頸肩腕障害の回復に必要なのは、手話を使わないことではなく、脳を休ませることです。手話を常時使うろう者には、このような頸肩腕障害の出現は極めて少なく、手話通訳者の脳疲労は半端ないことが想像できます。
頸肩腕障害の治療の一環として、温泉旅行で一泊などの企画を手話通訳者団体がやっていました。昔は疑問にも思わなかったのですが、今思うと、まったく見当違いのことをやっていると思います。その温泉に手話通訳者の人が集まってきて、頭が休まるとは思いません。むしろ、逆効果のような気がします。一人で自宅の風呂であったまったほうがましなことでしょう。
早く治して、一刻もはやく手話通訳者として復帰しろ。周囲の人が懸命になればなるほど、そのプレッシャーだらけになります。頭を手話の世界から離すことが何よりも重要であり、それは手話通訳者仲間には絶対にできないことなのです。
言語通訳者も脳疲労はすごいので、そこに無理がきたら、まず一時的にその世界から離れて、脳をリフレッシュすることが重要でしょう。