立てこもり事件でもめたこと | 耳鼻科医として、ときどき小児科医として

耳鼻科医として、ときどき小児科医として

以前にアメブロで書いていましたが、一時移籍し、再度ここに復活しました。専門の耳鼻咽喉科医としての記事を中心に、ときにサブスペシャリティな小児科診療のこともときに書いていきます。

 

 

現在報道されている、立てこもり事件。

92歳の母親が食べられなくなり、胃ろうをいれるかどうかで考え方があわず、息子と医者がもめていたそうだ。

 

少し前までは体が衰え食べられなくなると、胃ろうを入れている医者が多かった。口から食べさせるよりも、胃に穴をあけ、そこから食べ物をいれたほうが楽だからだ。入院、施設入所中は、能率を考えて、胃ろうを入れる医者が多かった。しかし、ここ10年ぐらい、胃ろうをいれないほうがいいという意見を言う医師が多くなってきた。

 

自宅での介護。そうなると、今までの医療者は食事を食べさせるということから解放される。患者のことを思うと、口から食べるべきだとう意見が強くなってきた。しかし、その負担はすべて家族に行ってしまう。家族としても、胃ろうのほうが楽なのだ。

 

まだまだ胃ろうを入れている医者も多い。最先端の熱心な医者ほど胃ろうは入れたがらない。この医師は、そのようなプライドがあったのであろう。家族は胃ろうを入れてほしい。医者は胃ろうを入れたくない。そのような意見の相違があったのかもしれない。

 

胃ろうを入れなければ、おそらく誤嚥性肺炎を起こしてなくなる。肺炎になったのは、胃ろうを入れない医者が悪いのだと責任転嫁されることだろう。

 

92歳という年齢を考えると、医者は寿命と考える。しかし、家族にとっては大切な肉親。92歳で寿命で亡くなるなど考えられないのだ。寿命ではなく、誤嚥性肺炎である。ほらみたことか。胃ろうを入れておけば肺炎だって起こさなかったし、亡くなることはなかった。胃ろうを入れない医者の責任である。これが怒りを引き起こしたのかもしれない。

 

医者と家族との間にどのようなもめ事があったのかはよくわからないが、胃ろうがらみだとそんなところであろう。

 

胃ろうをすぐいれる医者のほうは普通の医者であるが、胃ろうをいれないでがんばるほうがより大変であり、より医療知識も必要になる。それができる医者だったのだろう。このような逆恨みで命を落とさなければならなかったことが残念でならない。

 

正しいことをしているから患者に評価されるとは限らない。レベルを落とした診療のほうが、世の中には受け入れられることがよくある。